ここまでは、展示室内での埃払いの作業についてお話をしました。今回は、外に出て、屋外に展示されている彫刻作品の定期的なメンテナンスについてご紹介します。
国立西洋美術館の前庭には、何点の彫刻作品があるか、思い出してみてください。すぐに分かった方はすごいですね!
前庭に展示されているのは、オーギュスト・ロダンの彫刻《地獄の門》、《考える人(拡大作)》、《カレーの市民》、《アダム》、《エヴァ》の5体と、エミール=アントワーヌ・ブールデルの《弓をひくヘラクレス》1体、合計6体です。いずれも大型のブロンズ彫刻です。前庭はどなたでも自由にお入りいただくことができるエリアなので、彫刻作品だけ鑑賞する方もいらっしゃいますし、《考える人》の前で同じポーズをとって記念撮影をする姿もよく目にします。
これらの作品は恒常的に屋外に展示されているため、常に直射日光、風雨や環境汚染物質にさらされています。ゆえに、屋外彫刻は屋内に展示されている彫刻作品と比べ、劣化が早く、その度合いも著しいそうです。
国立西洋美術館は、東京の上野公園の敷地内にあるため、風が強い日には、公園の砂が飛んできます。彫刻作品には、表面保護ワックスが塗ってありますが、この砂が彫刻表面の保護ワックス層を少しずつ削っていき、あらわになった地金と、水(酸性雨など)や酸素、排気ガスなど環境汚染物質で化学反応が起こり、彫刻の表面に錆が発生します。そのまま放置していると、汚れと砂と錆が癒着してしまい、簡単には除去することができなくなってしまうのです。
そこで、前庭の彫刻作品には定期的なメンテナンスを施します。作品の大きさや劣化度合いを考慮しながら、各作品2~3年に1度のペースで処置できるよう、ローテーションを組んでメンテナンス作業を行っています。
メンテナンス作業は、外部の彫刻保存修復家に依頼し、場合によっては国立西洋美術館の保存修復室長の邊牟木さんもお手伝いをして進めます。前庭の彫刻作品は、いずれも大型のため、作品の周囲に足場を組んでの高所作業が必要です。まずは汚れや錆を落とします。クルミの殻の粉、桃の種の粉など、やわらかいものを使用して、表面を傷つけないように落としていきます。水で洗い流したら、表面を乾燥させます。表面が乾いたら、顔料を入れたワックスを塗って、バーナーで表面を焼きます。
この「バーナーで焼く」というのは、ワックスを均一にならし、定着させるために表面をあぶることだそうです。ワックスを塗るだけでもコーティングはできますが、ワックスを表面に均一に伸ばし、金属の細かい気泡内にまで浸透させるには、焼く(熱をかける)のがいい方法です。また、冬だと彫刻が冷え切っていてなかなか温まらず時間がかかるため、メンテナンス作業は暑い時期の方がよいそうです。この「バーナーで焼く」というひと手間を省いてしまうと、ワックスが簡単に取れてしまい、錆の進行が早まります。また、コーティングの下で錆が広がってしまうため、コーティングの固着が強すぎて落としにくいのもダメ。現在は、酸素は通すが水は通さないものを使っていますが、取れやすくなったり、砂や夏の日差しで落ちてしまったりコーティング選びも難しいそうです。
ちなみに、屋内の彫刻について、以前はワックスを焼かずに、塗って磨いているだけでしたが、近年は塗った後に、ヒートエアガン(=ヘアードライヤーみたいな形をしていて、かなり高温=500度以上の熱風をだすもの)でワックスを溶かして均一に伸ばしています。こちらの方が、やはり、余計なワックスが固まることなく美しく仕上がります。室内で火を使うと危ないため、室内彫刻にはヒートエアガンを使用、屋外でヒートエアガンで熱しても風などの影響であまり彫刻表面が温まらないのでバーナーを使用、といった具合に、場所によって道具を変えています。
定期メンテナンスと言っても、使う材料や素材に対する細かな配慮と、(暑さの中での!)いくつものステップを経る作業により、私たちはいつも良好な状態の作品を鑑賞することができていたのですね。
定期メンテナンスの他に、日常的なケアも行います。邊牟木さんが前庭の作品を見に行き、簡単な埃払いや部分的な表面ワックス塗布などを時々行っていますが、足場の問題や、休館日の前庭での取材・撮影、お天気などにより、なかなか頻繁には行うことができず、課題のひとつだそうです。
ちなみに、鳥の落としものもたまにあるそうで、そんな時は雨が流してくれるのを待ちつつ、雨が降っても落ちない場合には、邊牟木さんが除去作業を行っています。
作品の健康寿命を延ばす大事なお仕事、「保存修復」についてのレポートは、いかがでしたでしょうか。来館者の皆さまに快適な鑑賞環境をご提供するため、また、過去から受け継いだ大切な芸術作品を未来に残すため、美術館では日々様々な人が様々な仕事をしています。次に美術館にお越しになる時には、これまでとは違った目線で、作品を見ていただけるかもしれませんね。
この素晴らしいコレクションを多くの方に見ていただきたいという思いがあるものの、限られた展示スペースの中で展示できる点数には限りがあり、そのほとんどが収蔵庫で保管されています。
そこで、国立西洋美術館は、所蔵するロダン彫刻作品を3Dデータ化し、特設サイト「みんなの3Dロダン図鑑」で公開します。日本、さらには世界の人々に当館所蔵のロダン彫刻群を楽しんでもらうことを目指します。また、様々な理由で美術館を訪れることができない方々にも、鑑賞の機会をご提供し、すべての人に開かれた美術館となることを目指します。
さらに、絵画作品と比べ、楽しみ方がわからないなど、鑑賞が難しいと思われている彫刻作品の魅力を発信し、新しい鑑賞のアプローチ、楽しみ方を提案したいと考えています。
支援額は3,000円から、支援コースは全部で18種類です。
クラウドファンディングにご参加くださった方だけにお送りする【オリジナルグッズコース】(《考える人》のぬいぐるみや、みんなのイラストで作るにぎやか手ぬぐい、お家やオフィスでロダン展ができるアクリルスタンド5種セット、《考える人》《カレーの市民》など、お好きなロダン作品をお選びいただき再現するスノードームなどなど、すべて非売品です!)、特別な時間をみんなで共有できる【体験型コース】、【寄附コース】もご用意しています。
「支援コースとリターンを見る」をクリックして、各支援コースをお選びください。
プロジェクトの詳細は、「プロジェクト概要」ページをご覧ください。
【7月1日追記】
ここまで、300人を超える方々にご参加いただきました。全国から届く応援のお声に支えられ、勇気づけられ、励まされ、日々活動をしております。本当にありがとうございます!
「みんなの3Dロダン図鑑」を一緒に作り上げていく仲間をもっともっと増やしていきたいと願っております。
最後まで応援いただけますと幸いです。